鹿児島でゴロゴロシステムズという屋号でフリーランスエンジニアとして活躍されている井之前さん。パパゲーノのクラウドファンディングにもスポンサーとして支援いただき、「パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)」で使っているパソコンやマウスを寄付いただいてます。
今回は、生成AIを普段の仕事で活用されている井之前さんと、パパゲーノやすまさで、精神障害と生成AIの可能性についてお話しました!
名前 | 井之前さん(20代・男性) |
所属 | 個人事業主(ゴロゴロシステムズ) |
診断名 | 精神疾患(詳細は非公表) |
希望 | 自分の苦労した教訓から、労務・人事・業務・メンタルヘルスの課題のDXを通じて、一人でも多くの心の労働負荷の削減に寄与したい |
困りごと | ・今は症状が落ち着いており、精神疾患の症状により生活・仕事の制限はあまり多くない。 ・記憶力の低下など認知機能の低下は実感しており、車の運転はしないようにしているが完全リモートワークの働き方を選択し、対人関係のストレス負荷もかからない工夫をしている。 |
AI活用法 | ・システム開発案件のサンプルコードの生成 ・エラーコードの原因特定と解消 ・文章作成の補助(自分で書くと回りくどい下手な文章になるので生成AIを活用) |
一人でも多くの心の労働負荷の削減に寄与したい
まずは自己紹介をお願いします!
ありがとうございます。ゴロゴロシステムズの井之前辰信です。
1996年生まれ、宮崎生まれ、鹿児島在住です。自分がメンタル疾患で苦労した経験から、労務・人事・業務・メンタルヘルスの課題のDXを通じて、一人でも多くの心の労働負荷の削減に寄与したい想いでフリーランスのエンジニアをしています。
メンタル疾患はいつ頃に診断されたのでしょうか?
高校2年生の頃、特別進学クラスに所属していて、精神的にかなりの負荷がかかってしまったんです。
それが原因でメンタルバランスを崩し発症しました。その後1ヶ月ほど高校は休んだのですが、何とか復学して卒業しました。
高校卒業後はどんなキャリアだったのでしょうか?
高校卒業後は情報系の専門学校(2年制)に進学し、卒業後は9か月程度の空白(将来を考える)期間を経て、2年間ほどシステム開発の仕事をしていました。しかし、上司との関係や納期のプレッシャーで再び体調を崩してしまいました。その後、フリーランスのエンジニアになりました。
会社員時代の経験をもとにメンタルヘルスや労務に関心があり、最近は業務外では、通信制大学で心理学を専攻したり、労務関係の勉強もしています。
パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)設立時のクラウドファンディングにて、スポンサー枠でご支援いただき、利用者さんが使うパソコンやマウスを寄付いただきました。
休職とコロナ禍をきっかけにフリーランスエンジニアに
今は個人事業主としてゴロゴロシステムズの屋号で活動されていますが、フリーランスエンジニアになったきっかけは何だったのでしょうか?
会社員を辞めた後、実は大阪の企業に転職しようとしていました。
ですがちょうどコロナが流行し始めた時期で、大阪での勤務に不安を感じました。そこで鹿児島にいながらリモートで働く道を考え、クラウドソーシングで仕事を探すことにしました。
最初は「ココナラ」や「クラウドワークス」で小さな案件をこなしながら貯金を切り崩して生活していました。
少しずつ信頼を積み重ねて案件が増えていき、クライアントからの信頼を得ることで、より大きなプロジェクトに取り組むようになりました。
なるほど。最初は「ココナラ」や「クラウドワークス」で小さな案件から始めたのですね。
具体的にどんなお仕事に取り組んできたのでしょうか?
会社員時代は車にGPSや各種センサーを取り付けて高齢ドライバーなどの運転技能をAIで評価するシステム開発であったり、CO2など環境系センサーをクラウドに送信するファームウェア開発やオシロスコープを用いた基板評価などしてきました。
フリーランスでは、心理職の方と連携してメンタルヘルス関連のシステム開発であったり、 社会保険労務士事務所のIT支援、お米会社のIT導入・保守などであったり幅広く従事していま す。
一時期はクラウドソーシングやエージェントを使った開発案件を受けたりもしていました。
パパゲーノさんとの繋がりから生まれたお仕事もあるので、人との繋がりが大切だなと思っています。
在宅勤務だから車の運転や対人関係が苦手でも働けた
コロナ禍がきっかけで在宅勤務(リモートワーク)を始めたということですが、疾患の症状や自分の特性から、リモートで働くのは自分にあっていると感じますか?
そうですね。
リモートだから働けているところは大きいと思います。
自分の場合、薬が効いて疾患の症状が寛解した後も認知機能の障害は残っていると感じています。
そのため自動車の運転に自信がなく、免許は持っているが運転はしないと決めています。
電車やバスなどを使ってなんとか生活しています。インドア派なので、なんとかなっています。
地方で車移動が必要な仕事などだと、不安で働けなかったと思います。
また、対人関係の部分でも、オフィスに出社して対面で会う形だとどうしても自分の特性として人の目を気にしすぎて疲れてしまうことがあります。
その点でも、リモートワークや個人事業主で業務委託契約だと、やるべき業務をしっかりしていればそれで良いというちょうど良い距離感を保った関係になれるので自分にはあっていると感じています。
自分にあった環境を作れているのですね。
パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)の利用者さんや見学に来る方でも「フリーランスになりたい」「在宅で働きたい」という声はよく聞きます。
個人事業主だと働き方を自分で調整しやすい一方で、税務署に開業届を出して確定申告をしたり、営業して仕事を受注したりと全て自分でやる必要があり、健康保険に入れず国保になったりと大変な面も多いと思うのですがそのあたりはいかがでしたか?
最初は本当に大変でしたね。
もともと事務とか営業とかは得意じゃなくて、技術が大好きなタイプです。
フリーランスはすべて自分でやらなければならないので、営業から契約書作成、請求書の発行まで、一つ一つの業務に慣れるまで苦労しました。
でも、やらなければならない状況に追い込まれると、不思議と慣れてくるものではあります。
ゼロから業務を始める時は大変ですが、少しずつルーティン化(定型化)して、楽に処理できるようにしています。
生成AIでコードの下書きや文章の下書きを生成する
生成AIも活用していると伺いましたが、普段はどのような形で活用していますか?
生成AIは助っ人みたいな存在です。
システム開発の際、まずChatGPTにサンプルコードを生成してもらい、それを基にプロジェクトを進めています。エラーが発生した際には、エラーメッセージを入力するとすぐに解決策を提示してくれます。
以前はエラー解決に何時間もかけていたのですが、生成AIの活用で作業時間が大幅に短縮されました。
コーディングは生成AIがすごく頼りになりますよね。
他に何か生成AIを使っている場面はありますか?
実は、僕は文章を書くのが苦手で、自分で文章を書くと長文で回りくどい下手な文章になりがちです。
しかし、今ではAIに頼って文章の大枠を作成してもらい、その後、自分で修正しています。
例えば、ビジネスシーンで時々ある「拝啓〜〜〜」みたいなお堅い文章とかもしっかり指示を出せばAIが作ってくれます。
ビジネスメールや送付状などを書くのが苦手な方は多いですよね。
それが生成AIに頼んで一瞬で作れるのは大きいですね。
はい。特にビジネス文書や技術文書の作成においては、生成AIのサポートが非常に大きいです。
5W1Hを意識して指示を出せば、少し修正するだけで使えるレベルになっています。
LLM(大規模言語モデル)で疾患や障害のある方の可能性が広がることは強く実感しています。
精神疾患の認知機能障害を生成AIは補完できる
精神疾患などの症状で困ってる方にとっても、生成AIは役に立ちそうですかね?
そうですね。生成AIで精神疾患の症状による記憶力や判断力の衰えをカバーできるのが大きいと思います。
精神疾患の多くは寛解に近づいても認知機能の低下が残り苦労することが多いと聞きます。
そこを生成AIで補えると、やりたいことに挑戦したり職場で活躍したりしやすくなるのではないかと思います。
確かに。LLM(大規模言語モデル)は「大脳の機能拡張」と言われます。
知識や経験を記憶したり、情報を整理して思考したりする機能を外部にアウトソースできるので、記憶力、集中力、判断力が弱い人こそ活用できる余地が大きいのかもしれませんね。
そうですね。知識的なリソースを自分の脳内にあまり持たなくて良いというのが良いところだと感じています。
本でいうと「目次」を知っていればいい。
例えば、JavaScriptの本の中身を丸暗記する必要はなく、目次とか、何ができるかがわかっていれば、あとは生成AIに命令するだけで良い。「文字を点滅させたい」などの要件を言語化できれば良いわけです。
逆に、どういうことができるかを全く知らないと指示も出せません。プログラムでどういうことができるかの概略がわかれば詳細の知識や思考は外部ストレージのような感覚でChatGPTで補えます。
- 「薬」で症状を抑える
- 「就労支援施設」などで社会生活スキルを実践的に身につける
- 「生成AI」で自分に足りない機能を補う
あくまで個人の感想ですが、このような役割分担で精神疾患の症状と付き合っていけば、寛解に近づくと働ける可能性も広がるのかなと感じています。
大手企業で活躍する上では、「who kows what(誰が何を知っているか)」を知っていることが不可欠とよく言われますが、それに近い感覚ですね。
生成AIを活用すればこういうことならできる、ということを知っていることが求められているのかなと思います。
学生時代は試験の知識を詰め込んで、「どれだけ知識が脳内にあるか?」で評価されてきたと思います。
それが社会に出たら「どれだけ問題を解決できたか?」での評価に変わります。
脳内に知識の記憶は必要なく、生成AIなどツールを駆使して問題を解ければ良いわけです。
分からないことが何かが具体的に分かれば良いということだと思います。
ChatGPTをメンタルケアに使うのは難しい
ChatGPTを使ってカウンセリングをしたり、認知行動療法をするような取り組みもありますが、ChatGPTを使ったメンタルケアについてはどう思いますか?
仕事に役立つ手段としてのChatGPTの活用はしていますが、メンタルケアとしては使っていないです。
対話型のAIなので、自分から能動的に対話を始める必要があります。
自分が解決したい内容を伝えてあげないと回答は返ってこないです。
あっちから「最近どう?」と投げかけてはきません。
ユーザー側が能動的に解決する意欲があることが前提になっているのがChatGPTの特徴だと思います。
メンタルケアを必要としている場面は、能動的に問題解決しようとする一歩がなかなか踏み出せないことも多いので、今のChatGPTだとメンタルケアという意味では支援を届けるのが難しいのかもしれないですね。
そうすると、メンタルケアに使うならChatGPTではなく、APIでGPT4を自社サービスに組み込む形で、受動的にメンタルケアを受けられるようなユーザーに寄り添った体験設計が大切になりそうですね。
そうだと思います。今だと指示をこちらから出さないといけないですが、サービスにAPIで組み込む形でAIから質問をしてくれたり、適切なタイミングで「最近どう?」と投げかけてくれるような仕掛けが求められていると思います。
生成AIの活用は知的好奇心と指示のテンプレ化が鍵
生成AIを使う上で1番大切になることは何だと思いますか?
1番大切なのは、分からないことを「知りたい」と思うマインドだと思います。
ChatGPTは自分から指示を出さないと動かないので、知的探究心が重要です。
あとはAIへの指示「プロンプト」は5W1Hが大事です。ざっくりした質問だと、ざっくりした回答しか返ってこないです。
相田みつをの詩で「とにかく具体的に動いてごらん 具体的に動けば具体的な答えが出るから」というものがあります。まさにこの詩の通りです。
5W1Hを満たした指示をするようにしたり、回答としてどのレベルの具体度の情報を求めているのかを意識すると良いと思います。
実際に僕も毎日のようにChatGPTは使っているのですが、人に業務の依頼をする時も、AIに依頼する時も一緒で5W1Hが大事だなというのは感じています。
プロンプトについて調べると色んな人がコツを共有してくれていますよね。
的確な指示を生成AIに投げるための「テンプレ集」を作っておくのはおすすめです。
逆に生成AIを活用する上で、注意していることはありますか?
まずは精度の部分で、生成AIの回答を完全に鵜呑みにしないことです。
あくまで叩き台のレベルだと思って使うのが良いと思います。
あとはセキュリティの面で、無料版の生成AI系のサービスだと学習にプロンプトに入力したデータが使われてしまうものもあるので、重要な個人情報やアクセスキーのような機密情報をプロンプトに入力しないように気をつける必要があると思います。
「自然言語処理(NLP)」の分野はここ数年で急速に成長しています。特に大規模言語モデル(LLM)を活用した AIは、ビジネスや日常生活で幅広く応用されており、 業務の効率化に大きく貢献しています。みなさんもこの本を読まれて少しでも生成 AIに可能性を 感じとり、こころの労働負荷を減らすツールとして利用してみてください。
最後にみなさまへ、「つらいのは甘えだ」という人がいたら、気にしてはいけないです。 無理せずゴロゴロしましょう。心や体が疲れたときには、 休むことが大切です。誰かの言葉に振り回されず、自分のペースで一息ついてください。ゴロゴロしたり休むことで心をリセットしてまた元気になるため、大事な時間になります。焦らず、自分を大切にしましょう!!