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【ソーシャルワークとは?】定義や原則、日本での歴史的変遷をわかりやすく解説

社会的に困難な状況にある人々に対して、相談や援助を行うことを「ソーシャルワーク」と呼びます。この記事では、ソーシャルワークの定義や目的、原則、歴史的変遷をわかりやすく解説していきます。

ソーシャルワークとは何か?

ソーシャルワークとは、困っている人の生活や人生を社会の相互関係に注目して、人と環境の両方にアプローチして支援していく実践的な専門職であり学問のことです。

日本では生活面の相談に乗る仕事をソーシャルワーカーと呼ぶことがあります。また狭義には国家資格である「社会福祉士」「精神保健福祉士」の有資格者を「ソーシャルワーカー」と呼ぶこともあります。明確な言葉の定義があるわけではありません。

ソーシャルワークの定義

国際ソーシャルワーカー連盟と国際ソーシャルワーク教育学校連盟が採択した「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」(2014年7月)では「ソーシャルワーク」の定義を以下のようにまとめています。

「ソーシャルワーク」のグローバル定義

ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと会報を促進する、実践に基づいた専門職であり学問。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸元りは、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々や様々な構造に働きかける。

日本学術会議の社会福祉・社会保障研究連絡委員会がまとめた報告書(平成15年6月24日)では以下のようにまとめられています。

日本学術会議がまとめた「ソーシャルワーク」の定義

ソーシャルワークとは社会福祉援助のことであり、人々が生活していく上での問題を解決なり緩和することで、質の高い生活(QOL)を支援し、個人のウェルビーイングの状態を高めることを目指していくことである。

ソーシャルワークの目的

ソーシャルワークの目的は、グローバル定義や日本学術会議の定義にも示されている通り「ウェルビーイング」を高めることです。ウェルビーイングとは、本人にとって良い状態です。

また、ソーシャルワークは個人に対する支援だけを指すわけではなく、個人と社会の相互関係にアプローチすることが特徴です。組織や社会をより良い環境にすることも目的の1つとなります。具体的には以下のようなことを目指します。

  • 権利侵害、社会的不正、不平等、貧困を撲滅と、ソーシャルインクルージョンの実現
  • 基本的ニーズの充足
  • 社会機能の向上
  • 社会政策や制度、事業やプログラム、サービスの整備
  • 人の基本的ニーズを満たし発達を支える地域環境を実現する

バイステックの7原則

ソーシャルワークの基本原則として有名なものに、アメリカの社会福祉学者バイステックが1957年に「ケースワークの原則」という書籍で体系化したものがあります。

  1. 個別化(同じ問題は存在しない)
  2. 意図的な感情表現(利用者の感情表現の自由を認める)
  3. 統制された情緒関与(冷静に自分の感情をコントロールする)
  4. 受容(利用者の考え・価値観を否定せずに受け止める)
  5. 非審判的態度(良い・悪いの判断はしない)
  6. 自己決定(利用者自身が決める)
  7. 秘密保持

ソーシャルワークの流れ(プロセス)

ソーシャルワークの流れは以下の通りです。実際にはもっと複雑なこともありますが、まずは困っている人に気付き、課題を整理して、支援し、その結果を評価して改善していくことの繰り返しが基本となります。

  1. ケース発見とインテーク
  2. 課題分析(アセスメント)
  3. 支援計画の作成(プランニング)
  4. 支援の実施(インターベンション)
  5. 経過観察(モニタリング)
  6. 効果測定・支援計画の評価
  7. 終結・アフターケア

ソーシャルワーク理論の起源と歴史

ソーシャルワークという言葉は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、欧米で生まれた概念です。日本では、明治時代から大正時代にかけて、社会事業や社会改良運動という言葉が使われました。

大きな変遷としては、疾患を個人の問題と捉える「診断主義(治療モデル)」から、社会の問題と捉える「機能主義(生活モデル・社会モデル)」へと変化しています。

特に大きな影響を与えたのが、1945年に提唱された「一般システム理論」です。直線的因果律から円観的因果律への変化し、焦点は個人から社会にシフトし、個人と環境の相互作用にアプローチする視点が浸透してきました。

診断主義

クライエントの問題は個人の中にあるという考え方。フロイトの精神分析を取り入れた医学モデルに基づく。

機能主義

クライエントの問題は社会環境にあるという考え方。ランクの意志心理学を取り入れた成長モデルに基づく。

1922年:ソーシャル・ケース・ワークとは何か(メアリー・リッチモンド)

リッチモンドは「ケースワークの母」とも呼ばれます。ソーシャルワークの基本的考え方の土台を作り上げました。

  • 人間は社会環境と相互に関係しているので、環境を変えることで人間も変わることができる。
  • 人間は自分の人格を発達させることができるので、可能性を引き出すことが大切である。
  • 人間は自分の問題に対して解決策を見つけることができるので、その能力を支援することが必要である。

1945年:一般システム理論(ベルタンランフィ)

人間は社会や環境とも関わっており、自身が成長・変化したり、環境を調整したりすることができます。細胞レベルで人間を捉えては本質を見失ってしまい、もっと広く全体の性質や振る舞いをシステムとして捉えることが重要です。

1954年:リッチモンドへ返れ(マイルズ)

この時期は、診断主義(治療モデル)と機能主義の論争が激しく対立し、本来支援の中心であるはずのクラウエントが置き去りになっていました。その状況を批判して、マイルズはケース・ワークの母であるリッチモンドに帰れと言ったとされています。

1957年:The Casework Relationship(バイステック)

1957年にはケースワークの原則で紹介したバイステックの書籍「ケースワークの原則」が出版されました。バイステックはアメリカの社会福祉学者で、カトリック教会の司祭でもありました。

  1. 個別化(同じ問題は存在しない)
  2. 意図的な感情表現(利用者の感情表現の自由を認める)
  3. 統制された情緒関与(冷静に自分の感情をコントロールする)
  4. 受容(利用者の考え・価値観を否定せずに受け止める)
  5. 非審判的態度(良い・悪いの判断はしない)
  6. 自己決定(利用者自身が決める)
  7. 秘密保持

1967年:ケースワークは死んだ(パールマン)

1967年にパールマンが「ケースワークは死んだ」という論文で、ケースワークのあり方を批判しました。当時のケースワークが社会改善を忘れて、個人の心理や感情にばかり注目しており、もっと社会的な視点や責任を持って、人々の生活や環境をよくすることに貢献するべきだと主張しています。

1970年:社会福祉実践の共通基盤(バートレット)

バートレットは著書「社会福祉実践の共通基盤」で社会福祉に共通する基礎や原理を整理しました。

  • 社会福祉実践の本質的要素は「価値」「知識」「介入(調整活動)」の総体から構成される。
  • 「価値」とは、社会福祉実践における目的や方向性を示すもので、人間尊重や自己決定などの基本的な価値観を持つべき。
  • 「知識」とは、社会福祉実践における判断や行動の根拠となるもので、人間や社会に関する科学的な知識や経験的な知識を学ぶべき。
  • 「介入(調整活動)」とは、社会福祉実践における具体的な方法や技術のことで、ケースワーク、グループワーク、コミュニティワークなどの様々な手法を使い分けるべき。

日本のソーシャルワークの変遷

明治時代、大正時代、昭和時代、平成時代、令和時代の5つに分けて時系列ごとの出来事と法制定の歴史をまとめます。日本のソーシャルワークがどのように発展してきたのか、理解の一助になれば幸いです。

明治時代のソーシャルワーク

出来事

  • 社会事業や社会改良運動が始まる。政府や宗教団体、民間団体などが貧困や病気、労働問題などに対処する。
  • 小石川養生所や人足寄場などの無料の医療施設や自立支援施設が設置される。
  • 米沢藩や会津藩などの藩政で福祉政策が実施される。
  • 1879年に東京府癲狂院が設置され、日本初の公立精神病院となる。
  • 琵琶法師の明石覚一が江戸本所で杉山流鍼治導引稽古所を開設し、視覚障害者教育の先駆けとなる。

法律

  • 1874年:救貧法(最初の社会保障法)
  • 1890年:大日本帝国憲法発布(人権保障)
  • 1898年:工場法(労働者保護)
  • 1900年:傷病手当法(労災保険)
  • 1900年:精神病者監護法(都道府県知事の許可を得れば精神病者を自宅監置できるように)

大正時代のソーシャルワーク

出来事

  • 1912年に日本初の医療ソーシャルワークが恩賜財団済生会芝病院、聖路加国際病院で始まる。
  • 1914年に第一次世界大戦が始まる。
  • 1923年に関東大震災が発生し社会福祉団体やボランティアが救援活動を行う。
  • 1925年に普通選挙法と治安維持法が制定され、男子普通選挙制度と共産主義思想の弾圧制度が施行される。民主主義や社会主義の思想が広まり、労働運動や婦人運動が活発化する。
  • 検校制度が廃止され、視覚障害者の自立支援が進む。

法律

  • 1911年:国民健康保険法(健康保険)
  • 1919年:児童福祉法(児童保護)
  • 1919年:精神病院法
  • 1922年:失業保険法(失業保険)
  • 1929年:老齢年金法(老齢年金)

昭和時代のソーシャルワーク

出来事

  • 1945年の終戦後、敗戦の混乱や急速な経済成長に伴う都市化・高度化で新たな社会問題が生じる。
  • 欧米からソーシャルワークの理論や方法が導入され、日本でも教育や研究が始まる。
  • 1950年代半ばからは、ソーシャルワークの展開期と呼ばれる時代に入り、社会変革を必要とした時代背景が大きく影響する。
  • 1961年に反精神医学運動が始まり、強制入院や電気痙攣療法などの人権侵害や社会統制の側面が批判される。
  • 1969年に「Y問題」という川崎市に住む19歳の浪人生Yが、ソーシャルワーカーによって無診断で精神病院に強制入院させられた事件により、日本の精神科医療やソーシャルワークにおける人権侵害や専門性の問題に対する裁判・社会運動が起こる。
  • 1975年に「ライシャワー事件」で日本の精神科医療の遅れや問題点が国際的に注目される。
  • 1983年に「宇都宮病院事件」が起き、精神保健法の改正や患者の人権保障の強化につながる。

法律

  • 1947年:日本国憲法(基本的人権の尊重・生存権)
  • 1947年:労働基準法(労働者の権利保障)
  • 1947年:児童福祉法(児童の権利保障)
  • 1950年:社会福祉法(社会福祉の基本原則)
  • 1950年:精神衛生法(精神病者監護法・精神病院法を廃止して私宅監置を禁止)
  • 1951年:社会福祉士法(社会福祉士の資格制度)
  • 1959年:障害者福祉法(障害者の福祉向上)
  • 1963年:生活保護法(最低生活保障)
  • 1970年:心身障害者対策基本法
  • 1973年:老人福祉法(高齢者の福祉向上)
  • 1979年:児童虐待防止法(児童虐待の防止と対策)
  • 1987年:精神保健法(精神障害者の権利保障と社会復帰、地域生活支援センター)

平成時代のソーシャルワーク

出来事

  • 1984年10月に東京大学、東京工業大学、慶応義塾大学の3大学を結ぶネットワークJUNETの実験が開始され、日本にもインターネットが誕生。グローバリゼーションや情報化などの社会変動に対応するために、国際的な視野や専門性を高めることが求められるようになる。
  • バブル崩壊・失われた20年。
  • 先住民族や地域・民族固有の知などの多様性や文化性を尊重することが重視されるようになる。
  • IFSWやIASSWなどの国際組織がソーシャルワークのグローバル定義や倫理原則などを策定し、ソーシャルワークの共通の基盤や方向性を示す。
  • 1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災など自然災害に対するソーシャルワークの役割が注目される。

法律

  • 1993年:障害者基本法
  • 1995年:精神保健福祉法(精神障害者に対する差別や偏見の解消、社会参加の促進)
  • 1997年:介護保険法(介護サービスの保険制度)
  • 1998年:障害者基本法(障害者の基本的人権と自立支援)
  • 2000年:子どもの権利条約(子どもの権利保障と発達支援)
  • 2003年:児童養護施設等における児童虐待防止対策推進法(児童養護施設等での児童虐待の防止と対策)
  • 2005年:障害者自立支援法
  • 2006年:障害者差別解消法(障害者に対する差別の解消と参加促進)
  • 2011年:障害者虐待防止法
  • 2012年:障害者総合支援法
  • 2012年:子ども・子育て支援新制度(子どもと家庭の総合的な支援制度)
  • 2016年:共生社会推進基本法(多様な人々が共に生きる社会の推進)
  • 2016年:改正障害者総合支援法(精神障害者に対する就労支援や居住支援の拡充)
  • 2017年:精神保健福祉法改正(精神障害者の人権擁護や社会参加、地域包括ケアシステム)

令和時代のソーシャルワーク

出来事

  • 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、社会や経済に大きな影響が及ぶ。
  • オンライン化やデジタル化が加速し、働き方や暮らし方が変化する。
  • 人口減少や高齢化が進み、地域間の格差や社会保障の負担が深刻化する。
  • 環境問題や災害対策などの持続可能な社会の実現が求められる。
  • ソーシャルワークは、感染症対策や在宅支援、地域包括ケア、多文化共生などの分野で重要な役割を果たす。

法律

  • 2019年:働き方改革関連法(労働時間の上限規制や同一労働同一賃金など)
  • 2020年:改正障害者差別解消法(障害者への合理的配慮の義務化や相談窓口の設置など)
  • 2020年:改正児童福祉法(児童虐待防止対策の強化や児童相談所の体制整備など)
  • 2020年:改正介護保険法(介護サービスの質の向上や地域包括ケアシステムの推進など)
  • 2021年:改正社会福祉士法(社会福祉士の業務範囲や職能の明確化など)
  • 2021年:改正社会保障審議会設置法(社会保障審議会の機能強化や国民参加の促進など)

ソーシャルワークへの今後の期待

ソーシャルワークは、個人と社会の相互作用にアプローチするため、社会環境の変化が激しい時代においては多様な役割が求められます。厚生労働省の「第9回社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会」がまとめている「ソーシャルワークに対する期待について」では下記のように「包括的な相談支援体制の構築」と「住民主体の地域課題解決体制」が必要と提言されています。