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【障害者雇用とは?】対象者の基準や企業の義務と課題を解説

日本では一定規模の企業に障害者を雇用する義務があります。この記事では、障害者雇用の対象者や基準、企業の義務と、現状の課題をわかりやすく解説します。

障害者雇用とは?

障害者雇用とは、障害のある方が働くことのできる社会をつくり自立した職業生活を送れるようにすることを目的とした制度です。

障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)という法律で、ルールが決められています。

障害者雇用促進法とは?

障害者雇用促進法とは、障害者の雇用について、障害のない方と均等な機会や待遇を確保して、能力を有効に発揮できるような施策

障害者の法定雇用率や、障害による差別の禁止、合理的配慮の義務についてなどが規定されています。

(目的)第一条 この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。
(出所:障害者の雇用の促進等に関する法律 | e-Gov法令検索

企業の障害者雇用義務

障害者雇用促進法に基づき、企業には一定の人数の障害者を雇用する義務があります。

障害者の法定雇用率というものが定められており、従業員数に比例して雇用すべき障害者の人数も増えていきます。

令和5年の障害者雇用率は以下の通りです。

  • 民間企業:2.3%
  • 特殊法人等:2.6%
  • 国、地方公共団体:2.6%
  • 都道府県等の教育委員会:2.5%

民間企業の場合2.3%なので「43.5人」以上の従業員を雇用していると、障害者を1人以上雇用する義務が発生します。

なお、障害者の法定雇用率は引き上げが続いています。

民間企業の場合、令和5年現在は「2.3%」ですが、令和8年には「2.7%」まで引き上げられることになっています。

例えば、従業員数が1000名の場合は「27名」の障害者雇用義務があるということになります。

障害者雇用の対象となる基準

障害者雇用率の計算をする上で対象となるのは、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の所有者です。

労働時間が「週30時間以上」であったり、障害の程度が重度の場合には、より多く障害者雇用をしているものとみなして人数を多くカウントできるようになっています。

反対に、短時間雇用の場合は、人数を少なくみなして計算する仕組みとなっています。

(出所:)

なお、障害者雇用促進法にて、「障害者」は以下のように定義されています。

企業の「障害者雇用率」の運用では障害者手帳の所有者のみが対象者になっていますが、その他の障害者雇用に関連する政策については、手帳の有無に関係なく対象となる制度もあります。

身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。

法定雇用率を満たさないと罰則はある?

障害者雇用を積極的に実施する企業への助成金や調整金に当てるために、障害者雇用義務を果たしていない企業から「障害者雇用納付金」と呼ばれる罰金のようなものが徴収されることになっています。

1人あたり月5万円の障害者雇用納付金

企業には、毎月の初日に障害者雇用の法定雇用率に達していない分の納付金が課せられています。金額は1人あたり月5万円です。

例えば、従業員数が1000人の会社だと「2.7%」は「27名」です。そのため1人も障害者雇用をしていないと、毎月「27名×5万円=135万円」の納付金が必要です。年間で「1620万円」の損失となります。

雇用義務を果たしていない企業名が公開される

障害者雇用の法定雇用率を満たさないと、納付金が必要なだけでなく、行政指導によって達成率が低い企業については社名が公表されてしまいます。

社会的責任を果たしていない企業として、資本市場や労働市場からの評価が下がることに繋がります。

特に昨今はESG投資の観点から、上場企業は障害者雇用義務を果たしていないことが株価の下落要因に繋がりやすくなっています。

民間企業での障害者雇用状況

障害者の雇用人数は18年連続で増加

厚生労働省が発表している「令和3年障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企に雇用されている障害者の数は597,786人でした。前年より19,494人(3.4%)増加し、18年連続で過去最高の人数となっています。

精神障害者の雇用が特に増えている

障害者雇用として雇用されている人の障害区分をみると以下の通りとなっています。

・身体障害者:359,067.5人(0.8%増加)

・知的障害者:140,665.0人(4.8%増加)

・精神障害者:98,053.5人(11.4%増加)

人数としては、身体障害者が約36万人と多いものの、伸び率としては精神障害者の雇用が前年に比べて11.4%増加と急速に増えていることがわかります。

(出所:令和3年 障害者雇用状況の集計結果

障害者の実雇用率は中小企業が課題

実雇用率は、1,000人以上の規模の企業では法定雇用率2.3%を上回る2.42%となっています。

一方で、1000名未満の中小企業では、法定雇用率2.3%を下回る実雇用率となっています。

  • 43.5~45.5人未満:1.77%
  • 45.5~100人未満:1.81%(前年1.74%)
  • 100~300人未満:2.02%(前年1.99%)
  • 300~500人未満:2.08%(前年2.02%)
  • 500~1,000人未満:2.20%(前年2.15%)
  • 1,000人以上:2.42%(前年2.36%)

※43.5~45.5人未満の企業については、令和3年より追加されており前年比の調査報告がありません。

中小企業にも大手企業にも、同様の障害者雇用率のため、小さな企業ほど、雇用すべき障害者の人数は少ないです。しかしながら、事業規模が小さく余裕のない中で障害者雇用を実現することが難しく、中小企業にて障害者の実雇用率が低いことが考えられます。

平成30年度障害者雇用実態調査によると、障害者を雇用する上での課題については「会社内に適当な仕事があるか」「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」「職場の安全面の配慮が適切にできるか」「従業員が障害特性について理解することができるか」「採用時に適性、能力を十分把握できるか」などが多く挙げられています。

(出所:平成 30 年度障害者雇用実態調査結果

障害者雇用の給与(賃金)はどれくらい?

障害者雇用の給与は、障害のない方の給与と比較すると低い傾向にあります。

労働時間の差や雇用形態の違いがあるため一概に比較はできませんが、調査でわかっている障害者雇用と日本全国の平均賃金の違いをご紹介します。

いわゆる「一般雇用」と「障害者雇用」では、大きな賃金格差があるのが日本の現状です。

障害者雇用の平均賃金

平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」によると、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害それぞれの1ヶ月の平均賃金は以下の通りです。

  • 身体障害者:21.5万円
  • 知的障害者:11.7万円
  • 精神障害者:12.5万円
  • 発達障害者:12.7万円

身体障害者の給与は高く、知的障害、精神障害、発達障害については低い傾向が伺えます。

日本全国の平均賃金

「令和3年民間給与実態統計調査」によると、日本の給与所得者数は5,270万人で、平均給与は443万円です。男性545万円、女性302万円と男女差が大きいです。また、正社員508万円、非正規社員198万円と、正社員かどうかによる差も非常に大きいのが特徴です。

比較しやすいように12ヶ月で割って1ヶ月あたりの平均賃金を計算すると以下の通りです。

  • 日本全国:36.9万円
  • 男性:45.4万円
  • 女性:25.1万円
  • 正社員:42.3万円
  • 非正規社員:16.5万円

(参考:令和3年分 民間給与実態統計調査|国税庁

障害者雇用の求人の探し方

【1】障害者雇用専門の人材紹介会社

就職活動を支援するサービスの中でも、「障害者雇用」の求人に特化した専門の人材紹介会社がいくつかあります。

障害者雇用については、個別の状況に合わせた転職支援が求められます。障害者雇用専門の人材紹介会社であれば、障害者雇用枠の求人についてや面接対策など、豊富な知見から転職をサポートしてもらうことができます。

業界最大手として「アットジーピー(atGP)」や「dodaチャレンジ」などが有名です。

【2】インターネットでの求人検索

インターネットを利用して、障害者雇用の求人を探すこともできます。

例えば、「Indeed」や「スタンバイ」という求人検索サービスで、「障害者雇用」と検索すると障害者雇用の求人を探すことができます。

また、就職してみたい企業の公式HPにある採用情報に、障害者雇用の求人が掲載されていることもあります。

まずは、興味のある企業や仕事内容をインターネットを使って検索してみるのがおすすめです。

【3】ハローワーク

地域のハローワーク(公共職業安定所)は、就職を支援する公的機関で無料で活用することができます。

「障害者雇用枠で働きたい」と伝えると、地域の障害者雇用枠の求人を紹介してもらうことができます。

【4】障害福祉施設

就職に向けたトレーニングをする施設として、「就労移行支援」という障害福祉施設もあります。2年間の利用期限があり、利用には受給者証をもらう手続きが必要ですが、就職に向けたトレーニングと就職活動の支援を希望する場合は、就労移行支援を使うことも選択肢の1つになります。

業界最大手としては、「リタリコ(LITALICO)」「ココルポート(Cocorport)」「パーソルチャレンジ(ミラトレ)」などがあります。各社無料で相談や見学を受け入れています。

企業が障害者雇用をするメリット

障害者雇用調整金・報奨金

障害者雇用を民間企業なら2.3%という法定雇用率を超えて実施している企業には、申請に基づき支給される支援金があります。

従業員数100名超の企業については、1人あたり月額2.7万円の「障害者雇用調整金」というが支給されます。

従業員数100名以下の企業については、1人あたり月額2.1万円の「報奨金」が支給されます。

制度の名前対象の企業支給金額
障害者雇用調整金従業員数100人超1人につき月額2.7万円
報奨金従業員数100人以下1人につき月額2.1万円

なお、障害者雇用調整金や、報奨金の財源は、障害者雇用義務を果たしていない企業から徴収された1人あたり月5万円の「障害者雇用納付金」が充当されています。

障害者雇用の助成金

障害者雇用については、「特定求職者雇用開発助成金」「トライアル雇用助成金」「障害者雇用安定助成金」「障害者雇用安定助成金」「人材開発支援助成金」など様々な助成金があります。

職場のソーシャルキャピタルの向上

障害者雇用を行っている職場は、職場のソーシャルキャピタルが高いことがわかっています。

職場のソーシャルキャピタルとは、職場の「信頼」「互酬性の規範」「ネットワーク」によって構成される社会的資本のこと。ソーシャルキャピタルが高いと、相互の利益のために協力しあえると言われています。

国内企業7000社への調査の結果、障害者雇用を実施していたり、医療・福祉・労働に関する外部相談窓口の利用をしていると、職場のソーシャルキャピタルが高い傾向が明らかになりました。

障害者への個別的な配慮が、他の従業員にも良い影響を与えて職場全体で助け合う文化が醸成されるのではないかと考えられています。

(出所:障害者雇用管理と職場ソーシャルキャピタルの関連

日本社会が障害者雇用を義務化する意義

1つの企業にとっての障害者雇用のメリットだけでなく、日本社会全体としては障害者雇用にメリットがあるのかを考えていきます。

参考として、障害者雇用義務を規定していないアメリカと比べると下記の通りです。

項目日本アメリカ
障害者雇用義務ありなし(州によって異なる)
政策思想パターナリズムリバタリアニズム
仕事の種類保護的就労が増えやすい(ex.特例子会社)競争的雇用が多い
労働条件柔軟性が低い柔軟性が高い
採用基準障害区分や障害等級と必要な合理的配慮個人の能力と適性
解雇規制解雇が困難解雇しやすい
差別・偏見(スティグマ)障害者への偏見が根強く、地域や職場で生きづらさが残る多様性や社会包摂の意識が高い

義務化のメリット

障害者雇用を義務化するメリットとして、実際に障害者の雇用が促進されていることがあります。以下のグラフの通り、19年間連続で日本の障害者雇用者数は増加傾向で、雇用障害者数は61万3,958人(2.7%増加)となっています。

(出所:令和3年 障害者雇用状況の集計結果

義務化の弊害

障害者雇用を義務化することのデメリットとして、以下のような点が指摘されています。

  • 障害者と健常者を明確に区分することで障害者への差別や偏見が助長されてしまう。
  • 企業にとっては障害者雇用率を満たしていればよく、本質的に個人の強みや適性を見て活躍できる機会を提供する努力がされにくくなってしまう。
  • 義務化されていることで「保護的就労」を増やさざるを得ない環境になっている。
  • 障害者雇用納付金や個人の適性や強みとマッチしない雇用を強制されることで、産業全体の国際競争力が低下してしまう。

まとめ

日本では、企業に障害者雇用の法定雇用率を定めて、義務を果たしていない企業から1人あたり月5万円の納付金を徴収しています。令和5年時点の民間企業の法定雇用率は2.3%です。

19年間連続で障害者雇用者数は増加しており、障害者の雇用機会が拡大している一方で、障害者雇用とそれ以外の雇用とを明確に区分けすることによる弊害や、障害者雇用の給与が低いという問題もあります。

今後は、障害者雇用の数だけでなく、質的な面で仕事の内容や給与なども機会が広がっていくことが期待されています。