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伸び代しかない!障害福祉に魅せられて【anlib株式会社 堀内麻実さん】

山梨県甲府市で、障害者アートのレンタル事業や福祉に関する情報を発信するフリーマガジンの発行を手掛けるanlib株式会社を設立し、代表を務める堀内麻実さんにお話を伺いました。

【プロフィール】

堀内麻実(ほりうちまみ)

山梨県甲府市

anlib株式会社 代表取締役

「デザイン(アート)×福祉」の発信を続け、障害者が社会に参画するさまざまな仕掛けをプロデュース。現在、山梨の豊かな自然の中で、ものづくりができる、就労支援事業の立ち上げに向けて準備中。

[Instagram]

https://instagram.com/anlib.anko?igshid=YmMyMTA2M2Y=

出版業界でのキャリアと起業

赤坂
赤坂

本日はよろしくお願いします!まず簡単に自己紹介をお願いできますか?

堀内
堀内

堀内麻実と申します。
山梨で生まれ育って、元々は20年弱出版社に勤めていました。

出産・子育てを経験する中で家庭と仕事の両立にもやもやするものを感じ「どちらかしか選べないのか、自分はどうしたいのか」と考えた時に、勤務時間が9時から6時というような括りがそもそも難しいのかなと思ったり、同じように悩む女性がいるのではないかと考え、独立に至りました。

福祉の道に関わり始めたきっかけ

赤坂
赤坂

元々出版・デザイン関係の事業で起業をされて、そこからなぜ福祉に興味を持たれたのでしょう?

堀内
堀内

福祉に関する事業は2018年の会社設立後、1年程経ってから始めました。

取材活動の中でたまたま障害を持つ方の親御さんにお会いする機会があったのですが、皆さん同じことをおっしゃっていて。「第三者にもう少しカジュアルに私たちの暮らしを発信してほしい。そうしたら存在を知ってもらえたり地域に溶け込んだりできるのではないか」と。

私自身は身近に障害がある方がいた訳ではなかったので、踏み込んではいけない世界というような感覚があって、障害福祉関連の事業をする事に対しては半年ぐらい悩みました。しかし、東日本大震災などで当たり前が当たり前ではなくなったり、日常と非日常がすぐ隣り合わせにあることを学んだのもあって、障害も同じようにいきなり当事者になる可能性があるもの、目を背けず始めてみようと思って障害福祉について伝えるフリーマガジン「anko」を発行したのがスタートでした。

情報発信において福祉の世界は伸び代しかない

堀内
堀内

ankoには、私たちの予想以上の反響がありました。問い合わせをしてくださった当事者の方や施設の方を通じて関わりが広がったり、色々な場所を訪れる中で、「障害福祉の世界って伸び代しかない」という思いが強くなりました。

例えば、車椅子の方とネットに載っているバリアフリーのお店を回ったんですが、実際に行ってみたら入口が階段で、ああ中だけ(バリアフリー)だったんだとか、ネットの情報が全部嘘と言っても過言ではないぐらい、スムーズに利用できないお店ばかりだったんですね。このネット社会でネット上の情報がこんなに信用できない分野があるんだと驚きました。

他にも、絵がうまい人がたくさんいるのに何も発信されていなかったり、事業所で面白いものを作っているのに結局は知り合いに売ってお金に変えていたり。

赤坂
赤坂

こんなに発信しがいがあるものがうまく世の中に伝えられずに眠っている、というところにワクワクを覚えられたということですか?

堀内
堀内

そうですね。出版・広告といった発信する事に長く携わっていて、こんなに発信がうまくされていない分野があるんだ、というところに1番の面白さを感じました。

「第三者」が発信する意義

赤坂
赤坂

障害当事者でも支援職でもない、いわゆる「第三者」の立場として、障害福祉について発信する事に難しさはありますか?

堀内
堀内

それを恐れていたからなかなか踏み込めなかったという部分はあります。やっぱり当事者の方にしかわからない事はある。でも、例えば私たちが障害や福祉について発信することで、ああなんか福祉って面白そう、ちょっと知りたい、と思ってもらえるかもしれない。それに、そういう時に一般の方を福祉の世界に繋げる役目って結構大事なポジションじゃないかと思っていて。

例えば障害者アートに興味を持ってくれた企業さんに、いい企画だからぜひうちの会社に来て絵を描いてくれと言われたとして、もし私に何の知識もなかったら「やった!」と思って勝手に盛り上がってしまうと思うんです。

でも今の立場だと、まずここに来て描けるかどうかわからないし、気持ちが乗るかどうかもわからない。当事者さんと支援者さんとちゃんとお話をしたいので1回持ち帰らせてください、と言うことができる。やっぱりこういう事って今の立場だからできるのかなと思います。

赤坂
赤坂

そうですよね、間に立つ人がいるからこそできること、活きることがあったりしますよね。

障害者アートのレンタル事業

赤坂
赤坂

障害者アートのレンタル事業はどのような経緯で始まったのでしょう?

堀内
堀内

取材や営業で色々な福祉事業所に行くようになった時に、事業所に利用者の方が描かれた絵が飾ってあることが多かったんです。それで「この絵とても素敵だけれど、普段どこで飾っているんですか?」と聞くんですが、大抵「県主催の文化展で年1回飾るんだよ」というような回答で。

クオリティが高い作品を描く方がたくさんいるのに、楽しんでくれる人がたくさんいるだろうにと思った時に、じゃあどうやって広めていけるだろうと考えて少し調べたら、他県ではすでに障害者アートのレンタル事業が浸透していることを知り、私たちでも背伸びせずにできるかもと思ったことがきっかけです。

アートレンタル事業は、福祉事業所から利用者の方が描かれた絵をお借りして月額3,000円でレンタルし、レンタル料の一部を作品を描いた方にお支払いするというモデルになっています。地元企業や飲食店などを中心に、アートを楽しんでいただいています。

支援する立場への挑戦

赤坂
赤坂

今後、就労継続支援B型事業所の設立を予定されていらっしゃるとうかがいました。これまでは発信者の立場で障害福祉に関わって来られていたところを、より当事者の方と近いところで関わっていく方向を取ろうと思ったのはなぜなのでしょう。

堀内
堀内

障害者アートの普及活動をするようになった当初は、これが作品を描く方のやりがいだったり生活が変わることに繋がると思っていたんです。けれど、実際にやり出してみた時に彼らの暮らしの変化を自分自身があまり感じられなかったんですね。

企業や地域はすごくいい活動だね、絶対広がるよ、なんて言ってくれるけれど、実際の障害当事者の方や施設の支援職の方の温度感はこの取り組みが始まる前と変わっていない、みたいな感じがすごく嫌だったんです。こちらが勝手にやっているんじゃないかという風に思ってしまって。

これまでは私たちが絵を引っ張って渡す、みたいな感じだったんだけれど、今はどちらかというと自分が後ろから押す感じになりたいというのが強くなったというか。

そうすることでもっと一緒に歩めるし、こんな変化があった、ここまで来れたみたいなものが見えて、私が疑問に感じた部分が埋められるのではないのかなと。

赤坂
赤坂

なるほど。でも、今後もアート事業を継続されていくという事は、何かしら障害をお持ちの方のアート活動に意義を感じていらっしゃるということですよね?

堀内
堀内

アートって、1番障害あるなし関係なくそのものの価値で勝負できるものだと思うんですよね。

例えば、福祉事業所に依頼をして焼き菓子などを作っている企業もあると思うんですが、当たり前だけれど、それなりの金額で店頭に並んでいて、あっという間に売れてしまうなんていうことは珍しくありません。しかし悔しいけれど、中身はそのままで彼ら自身が販売するとなったとき、同じ価格ではなかなか売れないという現実もあるんです。

一方それが障害のある方が描かれたアート作品だと、可愛い、すごいという言葉が多いし、買いたいという方もたくさん出てきている。

赤坂
赤坂

福祉事業所で作ったものだから買いたいという人もいれば、逆にそれ相応の評価をしてくれない人たちもいる。後者の方が今はまだ多いという事ですよね。そういうものを取っ払ってくれるものがアートだと。

福祉の世界の発信と生きる選択肢を増やすことへの挑戦

赤坂
赤坂

最後に、今後取り組んで行きたいことや、福祉をこんな風にしていきたいというビジョンがあれば教えてください!

堀内
堀内

就労継続支援B型事業所の立ち上げはもう近い目標でもあるんですが、多くの方に福祉について知ってもらえるようにイベントを企画したりもできればいいなと思っています。

福祉業界って今若い働き手たちが熱心で、誇りを持って働いている方がすごく多いんです。ただどうしても上の世代の方の押さえつけがあったりするところもあって、変わりたいけど生まれ変われない葛藤が事業所や施設に非常に多いのかなと。

これだけ福祉業界の人材が不足している中で、どこかの施設が飛び抜けて何かをするのも難しいので、当事者の方も混ざってみんなで仕組みを考えられればいいのかなと思います。

あとは、障害者の暮らしの選択肢を増やす役目というのはやっぱりやっていきたい。

これは創業時の私と被るんですけど、女性の働き方の選択肢が少なかったところから起業をして、こうやって変えて行けるんだというのがわかった。

今、障害のある方の選択肢があまりにも少ないじゃないですか。高校を卒業したら施設に入所するか就職できればするかで、大学という選択肢はない、みたいな。ちょっとでもやってみたいとかチャレンジしてみたいという方に、道が開けるといいなと思います。