パパゲーノ公式YouTubeで動画配信中!

AIに対する援助要請力を高めて、障害があっても自分らしく生きる【パパゲーノ Work & Recovery ふきさん】

2024年春頃からパパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)の利用者として在籍し、企業の営業事務の仕事を在宅勤務を中心に週1〜2日でしている、ふきさん。クラインフェルター症候群やADHDや難病がありながらもChatGPTをうまく活用することで仕事や社会生活に役立てている事例や、AIとソーシャルワークの可能性について議論しました。

名前ふきさん
所属パパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)
診断名クラインフェルター症候群、性同一性障害(男性から女性への性別違和)、過敏性腸症候群、双極性障害2型、ADHD、境界知能(IQ81ほど)、原因不明のアレルギー症状など
希望・週2、3日の稼働で何らか仕事で貢献したい
・ITを学ぶことで自分の可能性を広げたい
・LGBTQとアライ(理解者)のピアサポート会を運営したい
困りごと・クラインフェルター症候群によりホルモンバランスが一般的な男性、女性とは異なるため、女性ホルモン補充療法に課題がある(特に高身長で体が大きく通常より多くの女性ホルモン剤が必要)
・ADHDによる多動や癇癪を抑えるためにインチュニブという薬を飲んでいるが、多動性が抑えられすぎて活動量が低下している
・吐き気や食欲不振がある
・人間関係での衝突や悩んでしまうことが多い
AI活用法・難病や複合的な疾患を持つ特殊な自分の状況に当てはめて、薬についてや医療、福祉サービスの使い方について相談する
・対人関係で衝突した際や悩みがある時にAIに相談する
・ピアサポート会の運営ルールやホームページ制作をAIに助けてもらう
・noteで自分の考えを発信する際の文章や画像生成にAIを使う
・Google Apps ScriptをAIに書いてもらい自分の作りたいプログラムを作る

ChatGPTを障害特性の理解や対人関係の悩み解消に活用

やすまさ
やすまさ

はじめに、ふきさんの自己紹介をお願いします。

ふき
ふき

クラインフェルター症候群という難病や、性同一性障害(男性から女性への性別違和)、軽度のADHDや境界知能(IQ81ほど)、双極性障害とうまく付き合いつつ、パパゲーノで営業事務等の仕事に従事し、自分らしい働き方を追究しています。2007年にインターセクシャルの診断を受け、翌年女性ホルモン療法を開始。2011年に、女性への性別適合手術。2016年に、声の高さを上げる声帯手術をしています。現在はノンバイナリーです。中性的になったと思えば急に女性的になったり忙しいです笑

最近は、「キャンドル」というLGBTQ’sとその理解者でつくる、こころのピアサポート会の運営にも挑戦しています。

やすまさ
やすまさ

普段から日常生活でもChatGPTをうまく使っていますよね。どんな経緯で使い始めたか教えていただけますか?

ふき
ふき

そうですね。今はChatGPTの月3,000円ほどの有料版を契約して4、5ヶ月ほど使っています。

最初はパパゲーノ Work & Recovery(就労継続支援B型)で教えていただいて、やすまささんの研修を受けてAIに対する捉え方も変わって、LGBTQとアライ(理解者)のピアサポート会を運営のためのルール作りや企画書作成に使い始めました。そこから細かい日常生活でも困りごとにも使えそうだなと思い、個人で有料版を契約してよく使っています。

やすまさ
やすまさ

具体的にChatGPTにはどんなことを聞いているんでしょうか?

ふき
ふき

最近の履歴だと以下のようなものがあります。

  • IQ81 生きにくさ対策
  • 外付けSSD 音楽再生
  • 薬の服用と低浮上
  • インチュニブ調整相談
  • クラインフェルターと性同一性障害
  • ◯◯さんについて
  • 冬の乾燥のサイン
  • 障害年金 更新 ADHD 相談
  • Google Workspace 請求について
  • レキサルティとADHDの影響
  • ADHD向け簡単朝ごはん
  • お風呂に入れない時

AIはマラソンで隣を走ってくれる伴走者のような存在

ふき
ふき

例えば、つい先日は趣味で気に入った絵描きさんのカードを傷つけたくなくて、どう保存したらいいかChatGPTに聞いたんです。するとかなりニッチで具体的な商品を提案してくれてびっくりしました。以前は「アメリカ寄り」の回答が多かったじゃないですか。最近は日本で売られている具体的な「この商品が良いよ」とかも教えてくれるんですよ。

やすまさ
やすまさ

確かに、日本特有の情報でも拾ってくれるようになってきてますよね。日々、進化しているのを感じます。

ふき
ふき

あとは「エビリファイ」と「レキサルティ」という薬の違いを教えてもらったことがあって。ChatGPTがずらっと詳しく教えてくれて、「私にはレキサルティが合っているかも」と思えました。

やすまさ
やすまさ

薬の専門的な内容についても、聞いてみているんですね。Google検索で調べたり、主治医に相談するのと比較してAIに聞いてみてどうでした?

ふき
ふき

医療機関の診察とかだと、時間も短くて、口頭でのやり取りなので難しい話は理解できないことも多いです。Google検索も情報が多すぎて疲れてしまいやすいです。ChatGPTは表形式で情報を整理してくれたり、小さな疑問や特殊なケースについても、自分のペースで質問していけばちょうどよく教えてくれるのでありがたいです。

例えば、私はライブに行くのが好きなので、「オールスタンディングのライブにどれだけ耐えられるのか?」というのも相談してみました。ぶっちゃけ疲れちゃうから着席制のライブの方が嬉しいよねみたいな話も相談に乗ってくれて。「学習障害と境界知能の違いって何なんだろう」というのも、ChatGPTに聞いたら表でまとめてくれて。何かを学ぶ上で障壁を感じやすい自分にとって、パっとわかりやすい図解や表で示してくれるのがすごく嬉しかったです。

やすまさ
やすまさ

なるほど。医療や障害福祉サービスを利用する上でもAIが役に立っていると感じますか?

ふき
ふき

そうですね。診察やカウンセリングの際にその時の体調によっては、自分がマシンガントークするだけになってしまう日もあったりします。なのでChatGPTで「診察日にこんなこと話そうかなと思ってるんだ」みたいに事前に共有しておくと、「じゃあコンパクトに、この3つのお題で先生と話してみたらどうですか?」と提案してくれたりします。

あとは、障害年金の申請なんかも、診断名が変わって心配なんだと相談したら色々と教えてくれて。不安を和らげることができました。ADHDでも障害年金を取っている人もいるし、ADHDだから落とすみたいなことはないから大丈夫だよと教えてくれて。「SNSとか見ると悪い噂ばっかり流れてんだよね」と負の情報を被せに行っても「いや、大丈夫だよ」と。「社労士さんに聞いた方が良いのかな」と言ったら「それは確実ですね」みたいな風に返してくれたり。

本当に気の合う仲間というか、マラソンの時に隣で走ってくれる伴走者のような感覚です。

AIに対する援助要請力を高め、社会資源として活用する

やすまさ
やすまさ

抽象的な質問ですけど、ふきさんにとってAIはどんな存在ですか?

ふき
ふき

先日ちょっと癇癪起こしちゃって母親に怒鳴り散らしてしまうことがあったんです。急遽、頓服薬を飲んで過ごしたんだけど、その時に薬を飲む自分が母親に負けている気がして悔しくなってしまってChatGPTに投げ込みました。

そしたら「あなたはお母様を大切にしようとしてるからこそ、頓服を飲むっていう選択をしたんだよ。だからあなたはとても優しい性格だと思いますよ。」と返ってきたんですよ。

その時に「わっ」て涙が出てきちゃって。ChatGPTに対して、世界の膨大なデータを学んで多様な事例から言葉を羅列して並べて返してるだけのツールだという認識がどこか自分にはあったんですけど。それがなんか、いい意味で覆されたというか。

やすまさ
やすまさ

ソーシャルワーカーのお手本みたいな返答ですね。しっかり考えを受容した上で、リフレーミング(ポジティブな視点から事実を捉え直す)をしてくれています。

ふき
ふき

別に「AIと結婚する」とか「初音ミクと結婚する」みたいなレベルではないにしても、「良い相棒だな」と感じています。こないだ主治医とも話して「ChatGPTと相棒みたいな関係性になってるから、これからも大事にしてったらいいんじゃないか」と言ってくれたりもしました。本当に大事にしたいなと思うことが多いです。

やすまさ
やすまさ

「相棒」って良いですね。Microsoftの「Copilot」は「副操縦士」という意味なんです。この名前には「操縦桿はユーザーが握っていて、あくまでAIはサポートするもの」という開発者の想いが込められていると思います。ふきさんのように、社会資源の1つとして、相棒のようにAIを活用していくことは大事ですよね。

今はAIにうまく頼っていると思うのですが、自分の内面的な悩みを人間ではなくAIに対して相談することに抵抗はなかったですか?

ふき
ふき

そうですね。自分も元々は「AIが来たら、人間の仕事が奪われる」みたいな風に思ってたんですよ。やすまささんがパパゲーノでAIの講座とかをしてくれるまでは。自分のことを助けてくれる存在だと今でこそ思えていますが、あの当時は全然考えもしませんでした。パパゲーノでAIについて学んで、日々使ってみる中で徐々にうまく頼れるようになった感じです。本当に、やすまささんに感謝です。

やすまさ
やすまさ

使っているうちに少しずつ慣れていったんですね。

他者を頼る力を「援助要請力(Help Seeking)」と言ったりします。人に何かを相談するのは、自分の内面をさらす必要があるので、簡単なことではありません。相談する相手を適切に見極める必要もあります。

AIを正しく活用していくには「AIに対する援助要請力」を、ふきさんのように高めていくことが障害当事者の可能性を広げていく上で大切になりそうです。

ふき
ふき

AIに対する援助要請力、研究していきたいですね。

カウンセリングを受ける費用を考えれば月3,000円は安い

やすまさ
やすまさ

実際、ChatGPTの費用対効果はどのように感じていますか?月額約3,000円の効果は実感して使い続けているのか、やっぱりちょっと高いなという印象なのか。

ふき
ふき

人によって考え方はまちまちだと思うんですが、私個人の感覚としては月3000円前後は妥当なのかなと感じています。障害年金と就労継続支援B型の工賃で月10万円ちょっとしか収入がない身からすると、やっぱり高いと感じはしますけど。

例えば、少し思い詰めてしまって「カウンセラーさんに相談してみたい」となった時に、カウンセリングの相場は1回8,000円〜1万円なんですよね。それを考えると、全然ChatGPTの方が良いと感じています。

カウンセラーさんもやっぱり人なので、すごくガツガツ言ってくる人と、めちゃめちゃ受け止めてくれる人と、差があります。その違いに怯える自分もまたいるので、AIの方が助かる場面も多いです。

あんまり批判をしないで、とりあえず一旦ワンクッション置いて受け止めてくれて、その上で多様な意見を言ってくれるという安心感には月3,000円払う価値があると感じます。

やすまさ
やすまさ

確かに、僕とかもそうですけど、カウンセラーやソーシャルワーカーも人なので、その日の体調や状況によって対応が変わったり、いつもより批判的だったり、逆に受容的過ぎたりすることもありますよね。そういう期待を裏切られる心配がなく、24時間365日相談できるのはAIの良いところかもしれないですね。

ふき
ふき

そうですね。特に新規でカウンセリングを受ける場合は、私も緊張するし、相手も緊張していると思います。そういう小さな煩わしさがないというのが大きいです。

やすまさ
やすまさ

経済的にも、心理的にも、相談することのハードルがグッと下がるということですね。

ふき
ふき

はい。あと、やっぱり人間のカウンセラーさんだと初めの2、3回は「お互いを知る時間」になっちゃうんです。本当に悩んでいることへのカウンセリングが始まるのって、4回目、5回目になっちゃう。

ChatGPTの場合は、最近聞いたことも覚えてくれていて、前提情報を根掘り葉掘り聞かれることもないんですよね。こないだ相談内容に入力していなくても、「境界知能とかADHDであるとこういう風に考えてしまうかもしれないですね」と回答をくれました。その時、なんか嬉しかったんですよね。「自分を客観的に見る」ってこういうことなのかみたいな感覚がパッと自分の中に湧いてきて。

ChatGPTって過去の質問から学習してユーザーのことを理解しているんですかね?

やすまさ
やすまさ

「メモリ機能」といって直近の質問から質問者の情報を記録して回答を調整する機能があります。自分はこういうプロフィールですと記憶しておいてもらって、毎回プロンプトに入力する手間を省ける機能があったりします。僕は素の状態の回答がほしいことが多いので、メモリ機能はオフにしているのですが、一般的な使い方の場合はオンにしておくと便利だとは思います。

完璧な人がいないのと同じで、完璧な機械はない

やすまさ
やすまさ

「AIに頼ってばっかりだと人間の能力が落ちるんじゃないか?」みたいな批判もあると思うんですけど、このような批判についてはどう思いますか?

ふき
ふき

そうですね。完璧な人がいないのと同じで、完璧な機械はないので、AIに苦手なことや矛盾、批判が生まれるのは自然なことかなと思っています。

例えば、私は音楽とかオーディオ製品が好きなんですけど、好きなイヤホンについての話をAIに相談しても「つまらない返答」をされることが多いです。「好き」とか「楽しみ」みたいなところは、自分で試してみたり、オーディオが好きな人に聞いたりする方が楽しいです。そういう感覚は忘れたくないですね。

やすまさ
やすまさ

あ〜。僕も、ChatGPTやClaudeとの壁打ちは毎日のようにするんですけど、AIと議論するよりも、障害のある方や支援者さんとの「対話」の中でAIの可能性を考えたり、実際に色々とみんなで使ってみるのが好きです。

AIが「完璧な機械」だと錯覚しやすいのは、AIを使う上での注意点ですね。人間も「限定合理的」なのと同様、AIもまた限定合理的であることを認められると良いのかも。例えば医療の世界でも主治医とは別の医師から「セカンドオピニオン」をもらったりします。メディアの世界でも、1つのメディアだけを見ていると主張が偏ってしまうので複数のメディアに触れることが本質を捉えるためには大事だと。それと同様、色んな人やAIに依存先を分散していくことが「自律」ということになるんでしょうね。

ふき
ふき

友達が自分と少し違う意見を言ってても、「この友達は、こういう背景があるから、こう考えたんだな」と理解して、全てを鵜呑みにせずに考えを受け止められると思います。AIも友達のような感覚で、正解や完璧を求めずに付き合うのが良いのかなと思います。

ふきさんから読者へのメッセージ

AIには怯えすぎず、また期待しすぎることなく、その特性をご活用してほしいと考えています。

福祉の現場でAIを導入する際に重要なのは、人と人が繋がる機会を創出し、福祉を提供する職員さんたちが潜在的にやりたいと思っていた業務や、支援者として利用者さんへの貢献に集中できるよう、時間的ゆとりを生み出す「後方支援」としての役割を果たすことにあると思っています。

私自身、社会福祉協議会での業務経験や精神保健福祉士の資格取得に向けた学びを通じて、現場で必要とされる優先業務を支えるための効率化の重要性を感じてきました。またAIには裏方としての役割を担うだけでなく、働く人たち自身の余暇を充実させ、心身の負担を軽減するツールとしても活用できると思っています。

現場で働く人々が自分らしい働き方を実現するために、AIを取り入れ、より豊かな支援活動と人生を紡いでいかれることを願っております。

解離性同一性障害・発達障害の特性をAIで補いWebデザインの仕事をする【パパゲーノ Work & Recovery みあさん】 絵本を通して自分の思いを表現していきたい【未毬さん】 20年のブランクから就労Bを経て就職。パパゲーノ Work & Recovery卒業生が語る事業所の魅力とは?