精神疾患をお持ちの方やその家族が日常に感じる悩みや生きづらさを共有し、体験を分かち合う場を運営する「クエスト」という自助グループがあります。クエストの代表、鶴田英規さんにその想いや活動内容、運営ルールや大切にしている「パーソナル・リカバリー」について伺いました。
クエストは、精神疾患全般の当事者やその家族、専門の支援者等が集い、各々の日頃抱えている悩みや生きづらさ等の思いをはき出し、それを皆でよく聴いて、各々の“気持ち、心に寄り添い合う”という、“体験の分かち合い”をする会です。
2011年に世田谷で活動開始!クエストの歩み
クエストの設立経緯を教えていただけますか?
「クエスト」は、現在13年目を迎えるセルフヘルプグループです。
東北大震災があった2011年1月からスタートしました。
最初は茶話会のような感じで、下高井戸の地域生活支援センターのメンバーとして夕方5時に活動が終わった後に、喫茶店でお茶仲間と話し合いをしていました。
その中で、ピアサポートに詳しい知人がいて、「セルフヘルプグループ(自助会)」というのがあるぞと教えてくれたんです。カフェで話していることもまさにこれなのではないかと。
そこで、このカフェの活動自体に名前をつけて、セルフヘルプグループにしようとみんなで立ち上げました。
クエストの立ち上げ当時は何名くらいが参加していたのですか?
恥ずかしいもので、4人だったと思います。
少しずつ、6人、7人と増えてきました。
ただ、人数が増えてカフェで開催することに問題が発生してきたんです。
あんまり真面目な悩みをカフェで話すと周りのお客さんの目が気になったり、少し驚いてしまうお客さんもいるので公共の施設・会議室でやろうということになりました。
そこから世田谷の施設で和室を借りて世田谷クエストの活動を開始しました。
この頃から数えると、2023年で13年目になります。
クエストのという名前の由来はなんですか?
みんなで話し合ったので僕が決めたわけではないですが、クエストは「探究」という意味です。
精神疾患について、人生における真理とか、大切なものが何か?、人生の道を探究していこうという意味で「クエスト」という名前にしました。
クエストの活動内容と運営事務局
クエストの具体的な活動内容を教えてください。
今は世田谷と府中の2箇所で月1回、原則土曜日に例会を開催しています。会議室が抽選に外れてしまうと、日曜日開催など変動してしまうこともあります。
1回あたり3時間ほど、精神疾患当事者中心の語り合いの場を運営しています。
今年の春からは世田谷から補助金が支給され、それを活用して会場のレンタルなどを行っています。
運営の事務局は鶴田さんが行なっているのですか?
代表の僕と、副代表の古橋さんの2人を中心にしています。
古橋さんが副代表になるまでは、会場取りも、会費200円の徴収も、全て自分1人でやっていました。
セルフヘルプグループの中には、法人化して色んな立場の人を巻き込んで運営しているグループもありますが、クエストは当事者だけで細く長く続けています。
運営資金はどのように集めている?
運営資金はどのように集めているのでしょうか?
運営資金は参加者から1人200円を都度いただいています。
参加者が少ない回は赤字になってしまうこともありますが、出費は会議室代とお菓子代程度なので、なんとかそれで工面できています。
これまでは補助金などはいただいたことがなかったのですが、2023年度より世田谷区の「精神障害者ピアサポート活動団体補助事業」の補助金にも採択されたので、今年度からはホームページの制作やチラシの制作にも挑戦していく予定です。
クエストで重視すること、ルール
クエストの語り合いの場はどんなルールで運営しているのですか?
特に大切にしているのは「体験的なアプローチ」です。
精神科医やカウンセラーとは異なる、当事者同士だからこそできる「本音での対話」を重視しています。そのための7つのルールがあり、それを基盤として、参加者は自らの心の悩みや生きづらさをゆるくフリートークで共有します。
クエストの7つのルール
- 人の話は最後まで聞く
- 人の発言を否定・非難しない
- 強制・押し付けはしない
- 政治・宗教の話はなし
- 秘密厳守
- 話は独占しない
- 途中入場・途中退席あり
目指すのは「パーソナル・リカバリー」
クエストの目指すのは、臨床的な回復ではなく、「パーソナル・リカバリー」です。
心の回復や人としての回復に繋がる活動を心がけています。
鶴田さんの著書「強迫症状闘病から開けた新世界」でもリカバリーについて書かれていました。
クエストの活動はリカバリーにどう繋がっていると思いますか?
全員が味方だという安心できる場。本音で言ってもいいなという雰囲気。共に悩み、助け合えるところがクエストの魅力かなと思います。
病気になると、病気であることに対してすごく敏感になるので、そういった安心して自分のことを本音で話せる場が大切なのかなと思います。
本音で話せないと、支援者からどんなに良い情報を聞いても腑に落ちないんです。
例えば、友人でも、上から目線の支援を受けていて方で、支援者が別の方になった途端に良くなった人がいました。
「自分のことを病人として見ていない。友達とまでは言わなくても、ちょっとした仲間として気さくに雑談をしたり、対等に付き合ってくれる。そういう支援者に巡り会った時に自分は初めてリカバリーに向かうことができた。」と言っていました。
セルフヘルプグループは対等な関係で当事者同士が話し合えるので、それがリカバリーに繋がっている部分はあるかなと感じます。
パーソナル・リカバリーを支援していく上ではどのような支援が必要になりますか?
まずは最低限のお金の安心はどうしても必要になると思います。
生活保護や障害年金など使える社会資源の知識を身につけて、最低限の安心を確保できた状態で、就労や就労以外の社会参加の機会などを創ることが大切かなと思っています。
これからのクエスト
最後に、クエストに参加を考えている方へのメッセージをお願いします!
「クエスト」は、あなたの心の居場所として、心を開いて参加してもらえる場所です。
ここで得られる「人薬(ひとぐすり)」、つまり人と人との体験の共有が、多くの気づきや癒しをもたらしてくれることを信じています。
「クエスト」はセルフヘルプグループとして、精神疾患の当事者たちが自らの体験や生きづらさを共有する場を提供しています。今回の見学・インタビューを通して、悩みを共有し、体験を分かち合う居場所の大切さを再認識しました。