双極シニアとは、双極性障害をお持ちの50歳以上のシニアが独立して運営する当事者会です。2019年11月に団体を設立し運営されている、ふくろうさんに設立背景や双極性障害をお持ちのシニア特有の生きづらさについてお話を伺いました。
双極シニア世話人ふくろうです。
双極症1型、障害家族、元職は福祉関係です。
そもそも、当事者会/ピアサポートとは?
当事者会とは、精神障害をお持ちの方が当事者同士で支え合うことを目的とした団体です。自助会、セルフヘルプグループ、ピアサポートグループなどの呼び方もあり、対象者や運営方法もさまざまです。
【ピアサポートとは?】精神障害の当事者同士のケアをわかりやすく解説双極シニアとは?
双極シニアはどんな団体ですか?
双極シニアは、50代以上の中高年による双極症当事者会です。
主にZoomを使ったオンラインでの茶話会(双極カフェ)をしています。
双極シニアの設立きっかけは既存のピア団体での違和感
双極シニアの立ち上げはどんなきっかけだったのですか?
私は50代で双極性障害になって退職して、当事者会にいくつか顔を出していました。
ですが同世代の人に会えなくて、話が合わないんですよね。
終わった後に一緒に飲み行っても、なんかいまいち話したっていう感じがしなくて。
確かに年下の人が多いと、何気ない会話や生活で困ることも違うので、話は合わなそうです。
結局いくつも行っても同じで、2019年11月に自分でシニア向けの当事者会を作りました。
近所で9人ぐらい集まって、軌道に乗り始めたところでコロナが来てしまって。
最初は全然見通しも立たず、ずっと休んでいました。
オンラインの当事者会が他にあることは知っていたので、その運営の仕方を真似して、2020年6月にZoomを使ってオンラインで双極シニアの活動を始めました。
それからは思った以上に順調に進んでいます。
3年で100回以上開催し、700人が参加!
何人くらい参加しているのですか?
開始して3年過ぎましたが、これまで110回ほど開催してのべ700人近い方が出席いただいてます。
本当にありがたいと思っています。
すごい人数ですね。
会員制のようなイメージなのでしょうか?
会員制ではありません。そのため実人員も数えていません。
月に1回は出ますよ、という人が20人くらいはいます。
「最近この人見ないな」ということはありますが、集計したりはしていないです。
双極シニアの活動内容
双極シニアさんは普段どんな活動をされているのですか?
「双極カフェ(茶話会)」は毎月3回Zoomで開催しています。病状についてや、年金・福祉・家族・介護・加齢・人生・終活などシニアならではの話題をおしゃべりしています。
多い時は毎回8名ほど参加し、少ない時は4、5人の時もあります。これが活動の中心です。
他にも「双極モノローグ」「双極ラジオ」「双極さんぽ」「双極ピア」と呼んでいる活動をしています。
ピアサポートの団体さんは「月1回」の活動頻度が多い印象です。
月3,4回も活動頻度を維持するのは大変ではないですか?
そうですね。
無職ですから、月3回ですが特に負担には感じていません。
双極シニアが実践している5つの活動
- 双極カフェ:ZOOMを使った茶話会(毎月3回)
- 双極モノローグ:ZOOMを使った言いっぱなし、聴きっぱなしの会(不定期)
- 双極ラジオ:ZOOMを使ったラジオ体操(毎週火曜・金曜朝)
- 双極さんぽ:双極仲間と大人の遠足、リアル、東京街角ぶらぶら歩き(年数回)
- 双極ピア:当事者で家族でもあるベテラン相談員が同じ目線でご相談をお伺いします(随時)
双極カフェ(茶話会)と双極モノローグ
「双極モノローグ」ではどのようなことをされているのですか?
「双極カフェ(茶話会)」は対話(ダイアログ)の場ですが、今年から「双極モノローグ」というひとり語りの場も開始しました。
「双極カフェ(茶話会)」は対話のダイナミズムがあってなかなか面白いんですけど、やっぱり1人が思いの丈を話す時間がちょっと足りないんですね。
そのため、「双極モノローグ」ではある程度時間を取って「しゃべりっぱなし」「聴きっぱなし」という昔から伝統的な当事者会のやり⽅を実践しています。
様子を見ながら毎月やるかどうか検討しているのですが、これが結構大変なんです。
誰にも遮られずに自分の語りを聞いてもらえる場はとても貴重ですよね。
運営はどのような点が大変なのでしょうか?
思いの丈を全て話すと、本人はスッキリするけれど聞いている方はしんどいこともあります。
例えば、双極性障害をお持ちの方は躁状態の時に「あの時に本当に家族を傷つけてしまい後悔している」というエピソードを話すこともあります。症状ではあるのですが、あの時に本当に家族を追いつめて傷つけてしまい後悔していると打ち明けてくれることがあります。
吐き出す方はそれでいいのですが、聞いている方に辛い経験がある方がいるとフラッシュバックを起こしてしまうなど、運営上の難しい点があります。
双極シニアの4つの活動ポリシー
双極シニアは「自律」「暮らし」「シニア」「オンライン」という4つの活動ポリシーで運営しています。
- 自立:自ら決定し運営する
- 暮らし:患者や障がい者である前に生活者だから,暮らしを大切にする
- シニア:もっぱら中高年の双極症の人たちが集うところ
- オンライン:世界中の双極シニアとつながりたい
【1】自立(当事者が自ら決定して運営する)
双極シニアは、当事者が自ら決定して運営することを大切にしています。
やっぱり「平場」ですから。専門家にも任せません。
「当事者会」と言っても色々あり、それぞれに特徴があるのは当然ですが、当事者でない医師や支援者が運営の中心を担っているというのは私たちには違和感があります。
【2】暮らしを大切にする
2つ目に、暮らしの中で双極性障害をお持ちの方がぶつかる問題について具体的なことを話すことを大切にしています。私たちは専門家ではなくごく普通の庶民です。
もちろん、薬の話や治療の話が出ることもありますが、基本的には暮らしをテーマにしています。
暮らしに関する話題としてはどんなことがあるのですか?
日々の楽しみや趣味の披露、躁うつのときの過ごし方のヒント、ホームヘルパーや訪問看護など保健福祉サービスの利用の仕方などがよく話題になります。
同病の仲間と話す時間は何物にも代えがたいひとときです。笑い声が絶えません。
深刻な話になってもそこは年の功、笑顔で真顔。
だいたい最後にみんなに「あなた今日の晩御飯は何ですか?」と聞くようにしています。
「今日晩御飯はこの前昨日作ったカレーまだあるからちょっと温めたら食べようかな」って人もいるし、「ちょっと元気だからスーパー行って何か美味しいものを考えて作ろう」とかいう人もいます。
あるいは「鬱だからお惣菜でも買ってくるか」とか、「外も行けないからUberで頼むかな」「お金もないしどうしようかな」と、そんな話をしています。
ファシリテーターなどはいるのでしょうか?
普段なかなか吐き出せないことを吐き出すことが目的なので、ファシリテーターはいません。
みんなが それぞれいろんな意見を持ってるのを1つの方向に取りまとめていくのが ファシリテーションです。
私たちは特に取りまとめて1つの結論を出すことをしません。
それぞれの思ったことは思ったことで、それで良いと思っています。
【3】中高年の双極症の人たちが集う
3つ目に、シニアであること。
私たちは50歳以上の双極性障害をお持ちの方で活動しています。60歳以上の方が多いです。
シニア同士であるため、当然シニアとしての話題が出てきます。
50〜60代の方同士だから出る話題にはどんなものがありますか?
老後の暮らし、親やパートナーの介護、病状が安定して感じる家族への感謝、これらは世代特有のものかもしれません。
あと、薬の話は⼒を⼊れてないとはいえ、高齢になると肝臓・腎臓の代謝が落ち、同じ薬の量でも副作用が強く出てしまうことがあるので、シニア共通の話題として出ることはあります。
いわゆる「終活」のお話もされているのですね。
それと、福祉と介護の制度の問題で、65歳前後の高齢者に居場所が少ない課題も背景にあります。
パパゲーノさんも「就労継続支援B型」をしていますが、地域活動支援センターなども含めて福祉のサービスは「65歳」で使えなくなることがほとんどです。
これまで慣れ親しんだコミュニティがあっても、65歳になると居場所がなくなってしまうんです。
確かにそうですね・・・。
就労継続支援B型は65歳以上でも受給者証を取得できることにはなっているのですが、逆にいうとそれ以外の福祉サービスのほとんどはNGです。
65歳で1つ「制度の壁」ができてしまっているのかなと思います。
自治体によっても方針は異なりますが、65歳以上は一律NGという自治体の方が多いです。
特に新規はダメですね。64歳以前から継続して福祉サービスを受給していたら継続できることもありますが、65歳以上が新たにこの福祉サービスを使いたいとなった時に年齢で断られることが多いと聞きます。
住んでいる地域による差が大きいのも課題ですよね。
これまで週に何回か会って仲良くしてきた友達と別れなきゃいけないし。家族がいなければ単身独居で寂しい生活になりがちです。
継続したささやかな居場所、インフォーマルな居場所を双極性障害をお持ちのシニアに提供したいと考えています。
65歳前後で「障害福祉」と「介護」の連携はされていないのでしょうか?
全くないと言ったら言い過ぎですけど。
障害福祉は相談支援専門員(計画相談)が、介護はケアマネージャーが、その人の全体を見ています。この両方の間でうまく連携が取れていれば良いのかなと思います。
とはいえ、どう考えても介護サービスの対象にならない人であれば、相談支援専門員(計画相談)もケアマネージャーと別に連絡することはないですからね。
【4】世界中の双極シニアとオンラインで繋がる
最後にオンラインであること。
当たり前のことですが、Zoomは南極にいても接続できるのでオンラインだと世界中の双極シニアと繋がることができます。
入院してる方も参加したことがあるし、交通が不便なところに住んでいたり、現在自宅療養中で外に出れないという方でも参加できます。
あとは交通費がかからないこともメリットの1つです。東京でも往復で「1000円〜3000円」ほど交通費がかかってしまって、それが負担で当事者会への参加を諦めている人もいます。
これまでの当事者会にアクセスが難しかった人たちに、届けていくことが大事だと思っています。
オンラインで機会が広がることに希望を感じます。
とはいえ、ご高齢の方だとZoomを使いこなすのも難しい方は多いのではないでしょうか?
元々パソコンを使いこなしている人が多いのですか?それとも双極シニアに参加するために新たにZoomの使い方を覚えている方が多いのですか?
後者ですね。
1からご案内することが多いです。
私と機種が違うと操作も違うので、なかなか難しいです。
スマホでやる⼈が最近は多いですね。
私はiPadを使ってます。
1から教えていらっしゃるのですね!
最後はなんとかなるんです。やっぱり気持ちがあるから。
1、2回ダメでもチャレンジすればなんとか。
ご希望があれば電話でもご案内しています。
結果的には最初わからないとおっしゃった方にも参加いただいてます。
どんなきっかけで当事者会に出会うのか?
双極シニアに参加する方は、どんな方法で探して双極シニアを見つけているのですか?
当初はTwitterをやっていました。
今はGoogle検索でホームページが引っ掛かるようになったので、そこからが多いです。
ちなみに、ふくろうさん自身の設立背景にもあったように、自分にあったピア団体を探すことにはみなさんご苦労されているんでしょうか?
そうですね。
インターネットで当事者会を検索するのはなかなか難しいですね。小規模な団体が多いので。
媒体としては、「双極カレンダー」「生きづらさJAPAN」「スマイルナビゲーター」「こくちーずプロ」などを使われると良いかと思います。
そこにも引っかからない団体は、X(Twitter)などで 丁寧に見ていけばいいと思います。
- 双極カレンダー
- 生きづらさJAPAN
- スマイルナビゲーター
- こくちーずプロ
双極性障害を経験したシニア特有の生きづらさ
双極性障害をお持ちのシニアならではの生きづらさにはどのようなものがあるのでしょうか?
シニアにとって⼤事なことに 「自分の人生を受け⼊れる 」というテーマがあります。
「人生」なんていうと⻘臭くて、若いときは苦⼿でしたが、⾃分があと10年〜15年 ⽣きられるかわからないとなると、否応なく直⾯せざるを得ません。
私は「僕の人生、双極症でつらいことが多かったけど、いいこともあった。家族にいっぱい迷惑かけたけど最後は理解してもらえた。人生って、良くも悪くもこんなところかな」といってこの世にお別れできたらいいなと思っています。
でもそれって簡単なことではありません。
精神の病は大なり小なりそうですけれど、双極性障害の人生ってさんざん地べたを這いずり回った挙句にようやく平安がつかめるか、つかめないかっていうものです。
1人なら孤独なつらい作業ですけれど、私たちは同じ病を持つ者同士が集まって自分を受け入れる作業に取り組んでいます。
もちろん私たちが「人生って」と大仰な議論をするわけではありません。仲間同士が集い、語り合い、笑い合ううち自然に自分を受け入れられるようになるのだと思います。
双極シニアに参加した方にはどんな変化があると感じていますか?
やっぱり明るくなりますよね、なかなか人に話せなかったことが話せる居場所が見つかると。
「スッキリした」「話してよかった」というコメントはよく伺います。
それ以上にその人の内面にどんな影響があるかは、人にもよるかなと思います。
双極シニアで今後やりたいこと
双極シニアで今後挑戦していきたいことはありますか?
1人でも多く,当事者会が必要な人に当事者会を届けていきたいと願っています。
皆さんのご理解とご協力をいただけたら、すごく嬉しいです!
定員は少し余裕があるので、毎月3回実施している「双極カフェ(茶話会)」にぜひ参加いただけたらと思います。
「パパゲーノ Work & Recovery」にも50代、60代の方は見学に来ているので、双極シニアに興味を持ちそうな方にはご紹介させていただきますね!
ありがとうございました!